「健康経営」を経済産業省が扱う理由とは? そして、厚生労働省は?

普通ならば、厚生労働省の管轄となりそうな「健康経営」ですが、なぜ経済産業省が中心となっているのでしょうか?
そこには、単なる健康管理ではない視野があるからです。

日本における健康経営は、2014年のアベノミクスの成長戦略の一つなのです。つまり、日本が世界に対して競争力を増すための戦略として、健康経営を掲げていることから、厚生労働省ではなく、経済産業省が中心となっているのです。そして、これを受けて2015年から早速「健康経営銘柄」「健康経営優良法人」の選定と認定を行うようになったのは、ご存じのとおりです。

日本は少子高齢化を迎えて、労働力人口が減少する中でいかに競争力を保つかというときに「生産性の向上」を目標として掲げました。それは、日本は長時間労働であるにも関わらず一人当たりのGDPが上がっておらず、労働時間の少ない国々に大きく負けていたからです。言い換えれば、「日本は生産性が低いために長時間労働で補填していた」とも言えるのです。

そして、高齢化社会のもう一つの課題は介護休職や介護離職です。せっかく本人が働ける状態であっても、親の介護のために、やむを得ず職場を離れるということも労働力を低下させているという実態があるのです。それは、やはりどうしても日本人の健康状態をよくしないと解決しない問題であるのです。

しかしながら、労働にのめり込めばのめり込むほど、身体の健康状態は悪化します。疲労の蓄積やメンタルへの悪影響、食事や睡眠時間の不足といった課題がさらに襲い掛かるのです。そのために必要なこととして定義されているのが「働き方改革」であり、これも連動して考えていかなければならないカギとなっています。

すなわち、どれもこれも、従業員の心とからだの健康を改善するということを通じて「しっかり働ける環境を作り、生産性を向上させる」というところにつながっているのです。それが日本が競争力をもつための戦略だと定められているのです。

これは企業の競争力を高めるために生産性を向上するということですから、健康経営は明らかな投資案件です。従業員ひとりひとりが気を付けましょうというレベルではありません。経営戦略の一つです。

では一方で、厚生労働省はどのように関与しているのでしょうか。これは逆に見えにくい状態にあるのですが、「健康経営」に対になるものとして「データヘルス」という考え方を推進しています。すなわち、健康データを活用し、データ分析に基づき個人の状況に応じた保険指導や効果的な予防・健康づくりを行うという趣旨のものです。これは主に、健保組合などの保険者が主体となって推進することが期待されていますが、こちらは準備期間を経て2018年から本格的に始動するといった状況なのです。

いずれにしても、「健康経営」と「データヘルス」というのは一体となって推進することで、より連携を高めることが重要だと認識されており、これを「コラボヘルス」と称して推進する動きが高まっています。

つまり、この動きは日本全体の課題解決と同時に、攻めの戦略・投資として機能するために、連携しながら進めていくことが最大のポイントだとされているのです。